「だからっ、誤解だってーっ、俺の話聞いてくれよっ」
頼むから。
そう真剣に言えば、暴れていたハボックの体が漸く大人しくなる。
「…ちょっとさ、降ってわいた幸運てヤツに感動しすぎただけだから…」
「……降ってわいた、幸運?」
その言葉に、何が言いたいのかときょとりとした表情で見上げてくるハボックに、気恥ずかしいような気分で告白する。
「だからさー、昨日…言ったよな?…好きだって」
そう言い聞かせるように言えば、少しだけ耳を赤くしてハボックは頷いた。
「その相手とは、二週間とは言え同居出来るうえ、朝食まで作ってもらって、…そんな弁当まで作ってもらっちゃったら…。どうしようってくらい舞い上がっても仕方ねーじゃんよ…」
しかもお前、半端なく料理上手いし。
「気分は新婚さんじゃん」
うわー、感動とか思ったら表情固まっちまって。
「…迷惑な訳ねーだろ。むしろ、すっげー嬉しい」
だから、その弁当くれよ。
そう背後から抱き締めたまま耳元で囁けば、擽ったかったのか薄くて小さな肩が震えた。
そして。
振り向きもせず、無言で渡された弁当を有難く受け取り。
そして。
出かけようとした時。
またも、上着の裾を引っ張られた。
「今度は、どした?」
そう言って、身を屈ませたヒューズはその瞬間、何が起こったのかも解らずに硬直した。
目前に。
ふわふわの金色が迫ったかと思えば。
ちゅっ。
なんて言う可愛い音と共に、何かが唇に触れたのだ。
「……………………」
「……新婚さんなんスよね?」
だったら。
言ってらっしゃいの、キス。
「…ああ、そうか」
何を言われたのか全然理解出来ずに、ただ頷いて呆然とするヒューズを真っ赤になった顔のまま、ハボックが送り出して。
「……行ってらっしゃい。中佐」
その日、一日。
有能で切れ者と名高い、マース・ヒューズ中佐が使い物にならなかったのは、周知の事実であった。
END
by momomame at 23:06 |
小説 : マース・ヒューズ中佐の子犬2 |
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「んじゃ、行ってくっからな」
俺の留守中は、絶対外に一人で出るなよ?
帰る前には、一度電話するから。
「必要な物とかあったら、そん時に言ってくれ。買って帰れるモンは買ってくっから」
そう言って、軍服に袖を通したヒューズの上着の裾をそっと引っ張られて、ヒューズは振り返った。
「ん?どした?」
「……これ」
おずおずと差し出されたのは、新聞紙に包まれた何かで。
内心首を傾げつつも受け取ってみれば、そのほのかな温かみから、どうやら弁当らしいと気付いて吃驚する。
「…まさか、弁当?」
初めて食べた朝食にも感動したけれど(ホントに感動ものの料理の数々だった。特にパンケーキは絶品だった)まさか、弁当まで作ってもらえるなんて、思いもかけないサプライズじゃないかっっ。
などと感動しすぎて半ば呆然としたヒューズの様子に、要らなかったのだと判断したハボックは、慌ててその包みを取り返した。
「ご、ごめんなさいっ、弁当要らなかったっスよねっ、大丈夫です、オレのお昼にすればすむ事だしっっ」
だから気にしないで下さい。
なんて言いながら、顔を真っ赤にして犬耳項垂れさせているハボックに、ヒューズは本気で慌てる。
ここで変な誤解をされては、この弁当を返して貰えなくなると今日一日、地獄のようにへこんでしまう自信がある。
「え?え?ちょっ、ちょっと、待てっっハボックっ」
「大丈夫ですっっ、気にしないで下さいっオレが勝手に作っただけだしっ」
そう言って包みを抱えたまま、奥に走り出そうとしたハボックの小さな体を背後から抱かかえて押さえ込む。
by momomame at 22:24 |
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勢い込んで言うハボックに苦笑しつつも、ヒューズは同意する。
確かにそうなのだ。
隣で見ていた自分が、保障する。
食材は、文句なく良かった。
調理方法も別段、独創的な訳でもない。
実にオーソドックスに、まるで教科書か何かで読んだ通りにマニュアル通りだ。
味付けも、見ている限りは間違っている様子もない。
なのに。
ロイが作ると、微妙な味になるのだ。
不味い訳でもない。
しかし、美味しいかと言えば確実にNOとしか言えない料理なのだ。
「…オレ、思ったんスけど。あれって、やっぱ大佐の愛情なのかなって」
真剣な表情で、ミルクパンを傾けるハボックの呟きに、店で注文してもこれ程美味しそうなパンケーキにあり付けるだろうかと思いつつ入れかけていたナイフを危う取り落としそうになる。
「…はあっ?」
「いや、あのっ、ほらっ、料理の隠し味は《愛情》だとか言うじゃないですか。そうすると一生懸命、美味しいもの食べさせたいって言う純粋な《愛情》を込めて作ると美味しくなるんだとした
ら、大佐の《愛情》ってちょっと変わってそうだから…ああ言う味になるのかなっ、て……」
「……ぐふっ」
「中佐?どうかしました?」
ちょっと思ったと言うハボックの言葉に、一瞬絶句したヒューズは次の瞬間、爆笑する。
「…ぶぁっ、はははははっっ、ちっ、ちょっと……かわっ」
ひーひー言う程に笑い転げ、息も絶え絶えになりつつ、ヒューズはハボックを見た。
何がそんなに可笑しかったのか、判っていない様子で怒ったような、泣きそうな表情で見ているのが可愛くて、更に笑いそうになるのを何とか根性で堪えて、言った。
「…お前、それ絶対ロイの前では言うなよ?あれでも本人は自分が真っ当な人間だと思ってんだから」
そんな正直に歪んでるなんて、指摘してくれるなと笑いながら言えば、漸く自分が上官の性格に難ありとはっきり言ってしまった事に気付いたのか、わたわたとするのを慌てて止める。
「おわっ、駄目だってっ、危ないだろーが」
まだ、湯入ってるんだろーが。
そう言ってミルクパンを取り上げれば、まだ自分が珈琲を入れている最中だったのを思い出したのか、ひどく申し訳なさそうな顔で見上げてくるのを大丈夫だと宥めつつ、そのままコンロの上へと戻した。
「もう充分、珈琲も入ってるだろ?…それよりメシにしよーぜ。折角の暖かいパンケーキが冷めちまう」
そう言えば、納得したのか同じように席に付いた。
早速、口に入れたパンケーキは、ヒューズが気に入りのドコのカフェよりもお世辞抜きに上手かった。
by momomame at 22:18 |
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そんな幸せを噛み締めながら、眠った振りをしているとハボックは小さな体全体を使って、ヒューズの上へとダイブして来た。
「ぐえっ」
あまりの突然の行動に、いくら鍛えていると言っても警戒なしに受けた攻撃に、一瞬息が詰まる。
「中佐、おきてくださいっ、朝ごはん出来ましたよっ」
最初っから、起きてたんでしょ?
寝た振りなんかしてっ。
まるで母親か何かのような口調で言った後、けたけたと笑い出すハボックに、噎せ返りながらも呆気に取られたようにヒューズはぼんやりとその顔を見上げた。
屈託のない、笑顔は愛らしく。
ひどく眩しいもので。
「中佐、おはようございますっ」
「……おお、おはよ…」
無意識に応えながら、本当にこれからの2週間、自分の理性が持つのかどうかに一抹の不安を覚えた。
それくらい、約5歳のハボックは愛らしく。
そして、魅惑的な生足であったのだ。
「おおっ、すげぇっっ」
問答無用で起こされて、洗面所に放り込まれたヒューズは食卓を見るなり、大きく叫んだ。
「……そんな大袈裟な」
少しだけ、耳の先(犬耳の方じゃなく、人間の耳の方。結局、二つあるらしいです…?少し…。いや、かなりどう言う構造になってるのか、気になりますが…)を赤くしているところを見ると照れているのだろーか、と思いつつも半ば以上本気で言い切った。
「大袈裟なもんか、自宅でこれだけの手料理が出たのって、俺がここに住み始めて五年くらいなるけど、初めてじゃねーかな…」
と、言いつつ考えて、ああそう言えばと思い出したように言ってみる。
「そー言や、ロイのヤツが作ったあの微妙な味のも手料理のうちに入るって言うんなら二番目だな」
その言葉に、慎重に珈琲をドリップしていたハボックが、青い飴玉のような瞳を大きく見開いて、驚いていた。
「中佐っ、あの人の料理食べたんスかっ?」
「…おうっ、喰ったよ…。話には聞いてたけどさー」
まさか、あそこまで酷いとは普通思わねぇだろ?
その同情の響きの問いに、ハボック自身も食べた事があると知り、同意を求めれば真剣に頷く。
「そうですよねー。最高級とはいかなくても、そこそこ良い素材使ってたのに、あそこまで微妙な味になるって殆ど天才ですよねー」
by momomame at 21:56 |
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何せ、ここ最近、ずっと想い続けていた相手なのだ。
その相手が。
こんな愛らしい幼い子供となって、自分の元に現れたかと思えば、2週間も一緒に過ごせるのだ。
しかも、犬耳、尻尾付きで。
とんだハプニングだけれど、ヒューズにとっては嬉しいハプニングと言えなくもない。
(つーか、可愛いなー。もう、一生懸命普通っぽい顔しちゃって)
こちらに向かって歩いて来る顔は、子供になっても普段通りに飄々としているのに、その余分なパーツがハボックの感情を如実に表していて、楽しい。
もう嬉しくて嬉しくて仕方ないとでも言うように、左右に振られているのだ。
ヒューズにとっては、今すぐ抱き締めて頬ずりしたいくらいの可愛さだった。
(もう昨日から、どれだけ俺を嬉しがらせりゃ良いんだよー)
そう。
昨日も、本当は気づいていたのだ。
抱き締めたハボックが、嫌がってはいなかったのを。
最初は、恐々だったのだ。
なにせ、ハボックに嫌われるのが一番怖かったのだ。
なのに。
胸に頬を僅かにすり寄せられた気がして、抱き締めたハボックに目をやれば、ひらひらとその尻尾が揺れているのが見えた。
それは。
犬が機嫌の良い時に見せる、それに似ていて。
だから。
恐らくあの時のハボックは、ヒューズの告白を嬉しいと感じてくれていたのだ。
それでも。
ハボックが、ヒューズに対して同じ気持ちを抱いてくれていたとは思ってはいない。
そこまで、都合の良い話なんてない事くらい知っている。
多分。
昨日までは、今までのヒューズの言動を冗談だと思っていた筈なのだ。
見た目以上に純朴な青年は、色恋沙汰に対しては驚く程に初心だった。
だから。
そんな直ぐに、同じ気持ちが貰えるとは思っていない。
けれど。
それでも、そう言う意味合いで意識してくれているのが判るだけに嬉しくて仕方が無いのだ。
by momomame at 21:17 |
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