マース・ヒューズ中佐の子犬4 

「も、中佐の馬鹿―っ」
「はいはい、だからスマンって」
 あの後、観覧車が地上に着くまでの間、キスと不埒な手に翻弄されまくったハボックは自力で観覧車から降りる事が出来ずに、ヒューズにお姫様だっこで下ろされたのだ。
「もう、二度と中佐と遊園地になんか行きませんからねっ」
 もう恥ずかしいなんてものではなくて。
 降りた瞬間の係員の唖然とした表情は、一生忘れられないんじゃないかと思うくらいにハボックの頭には刻み込まれていて。
 さぞかし驚いただろうと思う。
 もう十四、五にはなるだろう少年が、観覧車から髭面の男にお姫様だっこされて降りて来たのだから。
 係員だけでなく、観覧車の順番待ちをしていた客からも好奇心の漲った眼差しがヒューズにだっこされたハボックに降り注いだのだ。
 あんな屈辱は初めてだと、真っ赤になって怒りまくるハボックに、ヒューズは何の衒いもなく言い切ったのだ。
「だって仕方ないじゃん、嬉しくって仕方ねぇんだもんよ」
 絶対無理だと思ってたのに、両思いになれたんだぜ?
 浮かれるに決まってるだろ。
 その一言で。
 ハボックが真っ赤な顔で押し黙った。
 確かに仕方ないと言えば、言えるのかも知れない。
 自分だって、嬉しかったのだ。
 じゃなかったら、観覧車の中であんな事を許すはずもない。
 でも。
「…悪かったって。そのお詫びと言っちゃなんだが、来週3日程休暇を取って、旅行に連れてってやるよ」
 行き先は、東部の片田舎だ。
「え?」
「向こうに一泊しか出来ねぇけど、…気になってんだろ?」
 親父さんの具合。
「今しか行けないだろ?元に戻ったら、ロイんトコに帰らねぇといけねぇし、な」
 その言葉に。
 ぽかんと、ヒューズの顔を見上げる。
「…好きなヤツの事だから、な」
 照れたような表情で知っていたのだと聞かされ、ハボックは胸が一杯になる。
 ヒューズを好きだと思った自分に、間違いはなかったと幸せを噛み締めた。
 素直に、嬉しいと思う。
 嬉しくて、ころりと涙が零れる。
「…ありがとうございます」
 笑顔のままで、それでも涙を零すハボックに焦った様子でうろたえるヒューズの様子に、ハボックは今度こそ全開の笑みを零した。
 嬉しくて泣けるなんて、初めてだと思いながら。



                             END
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by momomame  at 22:00 |  小説 : マース・ヒューズ中佐の子犬4 |   |   |  page top ↑

マース・ヒューズ中佐の子犬4 

 いくら順調に成長しているとは言え、未だ十四歳程度の躯はヒューズの前では、無力で。
 抵抗らしきものも殆ど出来ずに、膝の上に引き上げられて抱え込まれれば逃げる事なんて不可能で。
「んぅーっ、んーっ」
 口付けられたまま、躯のそこかしこを弄られて悲鳴のような喉声を上げる事しか出来なかった。
 ちょっとした悪戯心の代償としては、ちょっとばかり大きすぎると思いつつ、内心で溜息を零す。
 けれど。
だからと言って、嫌な訳でもなくて。
実際のところ、心のどこかでこんな状況にも関わらず喜んでいる自分が居るのも知っている。
どんなに仕方ないと言うスタンスをとっても、好きなのだ。
この。
切れ者すぎて、どこか捉えどころのないマース・ヒューズと言う人が。
「…なぁ、言ってくれよ」
 けれど。
 その心底自信のなさそうな声音に驚いて眼を開ければ、そこには情けない貌を晒した男の顔があった。
「なあ、言ってくれよ。頼むから」
 でないと、どうして良いのか解らないのだと言う科白に、漸く未だ自分がヒューズに《好き》と言葉を返していない事を思い出す。
(ああ、そう言やまだ言ってなかったなー)
 そう思い、見上げた先にはヒューズの嫌に真剣な眼差しがあった。
 こんな、真剣な表情を今まで見た事があっただろうかと、ちょっと失礼な事を思いつつ、ハボックはちょっとだけ笑ってしまう。
 任務で東部に来ていた時にさえ、見た事のないような真剣な表情に。
 こんな表情を見せている人が、自分との事を冗談で口にした筈がないと素直に思った。
 一体、今までどうしてこんなに悩んでしまっていたのかと思いつつ、ハボックはくたりと力が抜けてしまった躯をヒューズに摺り寄せてその耳元に囁いた。
 別に、煽るつもりなんてなかったのだ。
 ただ。
 少し照れくさくて。
 だから顔を隠すようにして、告白しただけだったのに。
 ヒューズの耳元に顔を寄せて。
「…オレも好き…です」
 囁いた告白は、ヒューズの理性に直撃ものだったらしい。
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by momomame  at 23:07 |  小説 : マース・ヒューズ中佐の子犬4 |   |   |  page top ↑

マース・ヒューズ中佐の子犬4 

「…そんな顔すんなよ。好きって言ったけど…、無理にどうこうしようなんて、考えてないからさ」
 俺、お前に嫌われるの、すげぇ怖いんだわ。
 俺と同じ《好き》じゃなくても良いから。
 嫌いにだけはならないでくれ。
 そう言って苦く笑うのを呆気にとられて、見詰めた。
「…中…佐……?」
 そして。
 漸く、誤解に気付く。
 要するに、お互い怖がっていたのだ。
 その事に笑い出しそうになる。
 いい年をした大人が、二人で何をやっているのかと思う。
 まるで。
 ママゴトのような、恋だ。
 それでも、幸せで。
 少しだけ、悪戯心をおこす。
「…ふーん、同じ《好き》じゃなくて良いんだ?……オレ、キスくらいはするのかな、って思って」
 観覧車に乗るの、OKしたのに。
 そう呟いて、また外を除き見る。
 途端。
 強引なくらいの力で引き寄せられて。
「ちょっ、ちゅうっ……んぅっ」
 観覧車が不自然に揺れてしまうじゃないかと抗議しようとしたのに、唇を塞がれて言葉にもならなかった。
 下手に暴れれば今以上に揺れると頭の隅を掠めて、大人しくヒューズのするに任せれば、好き放題に腔内を嬲られてくたりと全身から力が抜ける。
「……んぅっ、んっ」 
「…キスしても良い《好き》だと思っても…良いのか?」
 こんな風に、触れても良い《好き》なのかと、昨日とはまた違ったTシャツの上から胸を弄られて、全身を震わせた。
「んんっ、やっ…、ちゅ、さ…ココ、外だからっ」
 またも唇を塞がれ、胸の先をシャツの上から弄る手に翻弄されて、身悶える。
 
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by momomame  at 22:47 |  小説 : マース・ヒューズ中佐の子犬4 |   |   |  page top ↑

マース・ヒューズ中佐の子犬4 

 入り口に立っていた係りの人も、恐らく困惑していたと思う。
 家族と言うには、似たところが欠片もない二人だし、カップルと言うには年も離れすぎているし、しかも同性だ。
 さぞ、困った事だろう。
 そう思いながら。
 そっとヒューズの顔を伺い見ても、そんな事は欠片も気にしていないだろう事が窺い知れて、苦笑する事しか出来なかった。
「ハボック、外見てみろよ。観覧車なんて、この風景が醍醐味なんだぜ?」
 そう言って、ハボックを引き寄せるヒューズの腕にされるがままに隣に座る。
 抱き寄せられたままに、ぴったりと胸に頬を寄せればドキドキと少し早い鼓動が聞こえてきて、以外にヒューズ自身も緊張している事が判って、更にハボックはドキドキしてくるのを押さえられなかった。
「へ…ぇ、景色良いですねぇ」
 その光景の素晴らしさに、ハボックはじっと見入った。
 もう直ぐ傍まで、夕闇が迫っていた。
 オレンジ色に何もかもが、染まっている。
 遠くの空を見れば、そこはまだ空の色は青くて。
 空全体が、絶妙なグラデーションを描いている。
 その中に、チラホラと建物から零れる人工の光が瞬いている。
「この時間帯が、一番良いんだよ」
 これからどんどん電気が点きだして、夜には空じゃなく地上に光が溢れてくる。
「…ふーん」
 熱心に下を見詰めるハボックに、普段通りに色々と説明してくれるヒューズに、お門違いと思っても腹立たしさが込み上げてくる。
 やっぱり。
 好きは、違ったのだろうか?
 恋人に対する《好き》ではなくて、友人に対する《好き》だったのだろうか?
「…ハボック」
 何だか泣きたい気分になりながら、景色を睨むようにして見詰めていたハボックはその声に少しだけ不機嫌な表情のまま、振り返った。

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by momomame  at 21:37 |  小説 : マース・ヒューズ中佐の子犬4 |   |   |  page top ↑

マース・ヒューズ中佐の子犬4 

 朝一番で、お弁当を作って。
 はしゃぐヒューズに振り回されるように来た、遊園地だった。
 けれど。
 どうやら自分も、自覚する以上にはしゃいでいたらしい。
 ゴーカートで、ヒューズと競争し。(結局、負けてしまった。どうして、こんなモノまで上手いんだろ、この人)
 メリーゴーランドで白馬の上に二人乗りさせられて、恥ずかしい目にあって。(まさか、子供に囲まれてお姫様だっこ状態にされるとは思いもしなかったっ)
 ジェットコースターに乗せられて、心臓が口から出るかと思うくらいにドキドキさせられた。(あんなモノに金払って乗る人の気がしれない…。アレじゃ、大佐の運転する車と変わりないじゃん)
 そして。
 これが最後の締めだからと、観覧車に二人して乗った。
 観覧車に乗るのなんて家族連れか、カップルくらいだと、来たコトもないハボックでも知っている。
 それだけに。
 観覧車の乗り場で順番を待っている間、顔から火が出るくらいに恥ずかしかった。
 恥ずかしくて。
 そして。
 少しだけ、期待をする。
 ヒューズは、好きだと言ったのだ。
 キスもした。
 けれど。
 それ以上の事は、まだ何もない。
 それが、少しだけ不安だったのだ。
 確かに、今のハボックはそれ以上の事をするのは、色々と問題のある状態で。(つーか、昨日までの段階でそれ以上のコトしてたら、ヒューズがただのショタコンです……。つーか、淫行罪……)
 それでも。
 それ以上のアプローチが何もないから、本心を疑いそうになっていた。
 本当に、そう言う意味の好きで良いのか。
 ヒューズの飄々とした態度は、単純なハボックには簡単に本心を悟らせてくれないから。
 少しばかり、解からなくなっていたのだ。
 この観覧車の密室で、何かを吐露してくれるだろうかと秘かに期待していたのだ。
 だから。
 普通なら恥ずかしくて、拒否するような観覧車に乗るコトも同意したのだ。

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by momomame  at 22:58 |  小説 : マース・ヒューズ中佐の子犬4 |   |   |  page top ↑
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