「…ハ…ボック?」
開いたドアの先には、少しだけ起こった顔のハボックが立っていて。
無言で手を引かれて、よろめくようにしてドアの中に入った。
そして。
綺麗な青い瞳から、ボロボロと涙が零れたのに狼狽えた。
「ハ、ハボック?ど、どうし」
一体何があったのかと、ハボックを抱き寄せようとした途端、手を叩き落とされた。
ジンジンと痛みを訴える手を押さえ、呆然とする。
今まで、どんなに強引に抱き締めても、キスをしてもこんな風に拒絶された事なんてなかった。
なのに。
今、ハボックはヒューズの手を拒んだのだ。
それが、ショックだった。
けれど、そんなヒューズに向ってハボックは叫んだ。
「これはっ、中佐が悪いんっスッ」
「……えっ」
「…ちゃんとっ、オレも好きって言ったのにっ」
ドアの向こうで逃げようと思ってた。
そう言われて、ぎくりとする。
「オレの事好きだって言いながらっ、最後の最後で逃げるんスかっ?…オレにこんなに好きにならせといてっ」
逃げるんなら、最初から構ったりしないで欲しい。
そう言ってボロボロと泣くハボックに、ヒューズは呆然として。
それから。
今度こそ、ハボックを大事に大事に抱き締めて。
「ごめんな。俺さぁ、結構悪い事してきたから、さ。今更、好きなヤツ出来たからって…良いのかなって」
思っちまったら、身動き出来なくなった。
(ホント、馬鹿だよなぁ。俺)
「なぁ、ハボック。……ホントに俺で良いのか?」
こんなヤツで、良いか?
腕の中に抱き締めたハボックに囁けば。
「良くなかったら、最初から大佐の命令だったからって、ここに来ませんでした」
その言葉に。
らしくもなく、泣きそうになりながら力一杯抱きしめて。
今度こそ、恋人にするキスをした。
その日の夜。
ハボックは、ヒューズとキスの先をしたのだった。
END
by momomame at 23:44 |
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どうしたら良いのか、正直判らない。
否。
判っているけれど、勇気が足りないのだ。
要は今まで本気になった相手が居なかったせいで、本気の相手にどうやって伝えたら良いのかが判らないのだ。
今までの悪事のツケが回って来たのだと、親友が今ここに居たなら言っただろう。
それくらい言われる自覚は、ある。
世間には、親友の方こそが女癖が悪いと思われがちだけれど、親友のは純粋に女性達との会話を楽しんでいるだけなのだ。
フレンチキス程度はするが、SEXにまで至る事は少ない。
ただ誰にも隠すつもりがないだけに、派手に遊んでいるように映るだけなのだ。
それに引き換え自分は、本当に遊んできた。
唯一の救いは、遊びなれている相手だけを選んでいたと言う事くらいか。
そんな事を考えつつ、ヒューズはアパートに辿り着くまでの足取りとはかけ離れた重い足取りで階段を上った。
ゆっくりと、一段一段。
その度に心臓が変な風にバクバクとし出して、どんどん緊張は高まった。
そして。
自分の部屋のドアの前で、固まったように立ち尽くした。
部屋の中には、十六になったハボックが居る。
そのハボックに。
好きだともう一度告げて。
今度こそ、抱いて。
そう思うのに。
ドアノブに手をかける事が出来なくて、呆然と立ち尽くした。
(どーしたら、良いんだよ。俺で…良いのかよ、ホントに)
本当に、ハボックに自分が触れても良いのだろうかと考えれば考える程、駄目な気がして来てヒューズはドアを開く事が出来なかった。
なのに。
ドアは、内側から開いたのだ。
by momomame at 23:34 |
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「ん?」
急ぎの仕事も何もかも済ませて。
飛んで帰ると言う表現がいかにもぴったりな感じで階段を駆け上がろうとしたヒューズは、アパートの入り口でぴたりと立ち止まった。
滅多に何も入らない自分の部屋のポストに何か紙切れが入っている事に気付いたのだ。
ポストの口に引っかかっている紙切れのようなものを、引っ張り出してみる。
何か手帳の切れ端に殴り書きされたような、それは見覚えのあるもので。
「ロイのヤツ、来たのか?」
メモには、ただ一言『三日後に』とだけ書かれていた。
その一言で、何の事だけははっきりと解った。
「…あと三日、かぁ」
判っていた事だ。
最初から。
ハボックは、ロイの部下だ。
それも、ロイだけに忠誠を誓った部下だ。
おいそれとは手放せる部下ではない事も、簡単にヒューズの傍に居る事を承知してくれるハボックでもなかった。
それでも。
少しばかり、夢見ていたのだ。
こんな生活が、もしかしたら続けられるんじゃないかと。
この数日が、あまりにも楽しくて。
夢みたいに幸せで。
だから。
余計に、後3日しかないと言うのは、厳しい現実だった
本当は、判っている。
この3日間で、ちゃんとハボックと話をして。
ちゃんと両思いになれと言う、これは親友なりのお節介だと言う事くらい。
それに。
ハボックもヒューズの事を少なからず想ってくれているのも、もう知っている。
昨日の観覧車の中で、ちゃんと聞いたのだ。
好きだと、言葉にしてくれたのだ。
それなのに。
どうしても、手が出せなくて。
未だキスどまりの関係だ。(いや、昨日のお触りの段階でも充分淫行罪……)
by momomame at 23:19 |
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少しだけ涙ぐんでしまうと、狼狽えたように言い訳を始めるところが、あの人と親友なのだと納得出来るような仕草でワシャワシャと頭を撫でられる。
その仕草さえも、なんだかヒューズと似ていて幸せな気分になった。
そんなハボックの様子に、一応の納得をしたのか上官が立ち上がる。
「大佐?」
「…お邪魔して、すまなかったな」
もう乗る予定の列車の時間だからと、上官が帰り支度を整えるのを慌てて引き止める。
「えっ、もう?中佐には会って行かないんスか?」
「ああ、用は済んだ。三日後にまた来る」
実は、ホークアイに何もかも面倒事を押し付けて来てしまったから、今日中には帰らなければならないのだと苦笑する上官に申し訳なくなる。
今日、セントラルに来たのは本当にハボックの様子を見に来ただけなのだろう。
見に来たのと、ハボックの気持ちを確認したかったのだろう。
もしも。
本当にハボックにその気がないのなら、連れて帰ってしまえと思っていたのかも知れない。
面白がって放り出したように見せながら、本当はハボックを心配しての事だった事くらい知っている。
こんな姿で、ロイの傍に居るのはとても危険な事だったから。
一歩間違えれば、キメラと決め付けられて問答無用で研究所行きの可能性もあったのだ。
今も。
あの時も、人を喰ったような笑みをその口元に浮かべながら、それでも上官の眼差しにはハボックを心配する色が在ったのだ。
普段、どんなに横暴な事を言おうと、上官は決して部下の事を考えていない人でもない。
とても解り辛いけれど、優しい人でもあるのだ。
だからこそ、この上官を唯一と決めたのだ。
「……はい」
「では、な」
そう一言だけ残して、上官は中佐に会う事なく帰って行った。
後は、ハボック次第だと言う言葉を残して。
by momomame at 00:19 |
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来週には休暇を取って、ハボックの実家まで旅行に連れて行ってくれるとヒューズは言っていたけれど、無理になってしまったと小さなため息を零した。
(折角、連れてってくれるって言ってたけど…。こればっかりは仕方ないよな)
勿論、父の様態は気にかかる。
もうそんなに若くはないだけに、無理をしてはいないか心配なのだ。
それでも。
軍人となったからには、そう簡単には休暇を取って帰れる立場ではない事もハボックには充分に理解出来ていた。
父も昔は、軍人だったのだ。
東方司令部の実質の司令官である上官の護衛官になったのだと言った時、随分な出世だと喜んでくれたのも父だったのだ。
それだけに、任務も放り出してなんて帰れないし、帰る気もなかった。
それでも。
期待してしまっていたのだ。
もしかしたら。
見舞う事ができるかも知れない、と。
無意識に。
けれど、目に見えて落胆した様子で肩を落としたハボックの気持ちを察したように、上官はにやりと笑みを零した。
「まだ本決まりではないがな。来週には、東部の僻地への視察が予定されている。…勿論、護衛はお前だ」
ああ、そう言えば今回の目的地となっている視察先はお前の実家に近いな。
「…顔を出すくらいの時間はあるぞ?」
そう言われて、ハボックはぽかんと上官を見つめた後、全開の笑顔で頷いたのだ。
「はいっ、ありがとうございますっ」
いつもは困った上司なのに、こんな時だけ細やかな気配りを見せてくれるから部下で居るのだと思う。
「ま、まあ、どうせヤツも連れて行ってやるつもりだったのだろうがな」
これ以上、ここに長居をするのは危険だからな。
そう言われて。
嬉しくて。
by momomame at 23:01 |
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