Fri
09/29
2006
マース・ヒューズ中佐の子犬
抱き締めた小さな体が、泣き疲れてもう一度眠りについたのを確認してから、ここまで入れられて来たバスケットの中に寝かせると、ヒューズはもう一度電話をかけ直した。
『待っていたぞ、ヒューズ』
親友の声は、それ程には緊迫感が見られない。
と、言う事は今回の事はそれ程には危険な事ではないのだろうかと思い、けれど情報部将校としてはハボックの存在の危うさが理解出来るだけに、ほっと安堵する気にもなれなかった。
「待つくらいなら、最初に電話を寄越せよ」
苛立ちまぎれにそう当てこするように言えば、電話の向こうでは珍しくからかい混じりでもない苦笑が零れた。
『いや、お前の事だからな。下手に電話で話せば、最後まで聞かずに東部で来てしまいそうだったからな』
その言葉には、図星だけに反論できずにぐっと言葉を飲んだのが解ったのだろう。
『ま、練成陣自体は意外とポピュラーなものにアレンジを加えたもので、な。犬耳や尻尾くらいは問題ないが、アレンジの何がどう作用してハボックの年齢が若返ったのかが解らん。ただ、解るのはどちらも2週間程で効果が消えるだろうと言う事だけだ』
『それは、確かなのか?』
『ああ、元々この練成陣を考えた錬金術師は、あくまで一時的なキメラ化を研究していたようだ。…まあ、戦闘時のみキメラ化出来たなら、結構な戦闘能力だが。実際には、耳と尾が生えると言うだけの結果しか出せなかったようだが』
その言葉に、ヒューズは心底ほっとする。
もしも。
ハボックが踏んだと言う錬成陣が、一時的ではなく半永久的なキメラ化を促すものだったらと思えば、正直目の前が真っ暗になる程の恐怖だった。
『しかし、その姿を下手に晒す訳にもいかんしな。…下手に勘繰られて、ハボックを人体実験用に攫われても困る。元の姿に戻るまでの間、ハボックは東部に居ない方が良いと判断した』
だから、そっちに送ったと言われて慌てる。
下手をすれば、こっちの方がハボックに取っては危険な筈ではないのだろうか。
いや、絶対に危険な筈だ。
「ち、ちょっと待てよっ、こっちは中央だぞっ?何で、こっちの方が安全なんだよっっ」
『…今回の件は、大総統もご存知だ。…今回の練成陣の危険性もご理解いただいている。だから、表向きはハボックではなく子供が錬成陣の発動に巻き込まれた事にした』
解るか?この意味が、と続けられてヒューズも不承不承頷いた。
意味は、理解出来る。
一時的とは言え、若返る事が出来ると言うのは何時の時代も権力者の最後の野望だろう。
『…まあ、な。けど、それで大総統は納得してらっしゃるのか?まさか、大総統からハボックに何かしてくるって事はないだろうな』
その言葉に今度こそはっきりと解る程の、親友の呆れた言葉が降りかかった。
『確かにその可能性もあるがな、現時点ではハボックの踏んだ練成陣の形状は解っているんだ。ハボック自身を押さえなくとも、もう一度同じ錬成を行なう事も出来る。そんな中で、一仕官でしかないハボックを手元に置く必要はないだろう。…取り合えず、ハボックは休暇を取って実家に帰っている事になっている』
せいぜい大事に、預かってくれ。
そう言って切られた電話を前に、ヒューズは困惑の表情で長い間、受話器を見詰め続けていた。
『待っていたぞ、ヒューズ』
親友の声は、それ程には緊迫感が見られない。
と、言う事は今回の事はそれ程には危険な事ではないのだろうかと思い、けれど情報部将校としてはハボックの存在の危うさが理解出来るだけに、ほっと安堵する気にもなれなかった。
「待つくらいなら、最初に電話を寄越せよ」
苛立ちまぎれにそう当てこするように言えば、電話の向こうでは珍しくからかい混じりでもない苦笑が零れた。
『いや、お前の事だからな。下手に電話で話せば、最後まで聞かずに東部で来てしまいそうだったからな』
その言葉には、図星だけに反論できずにぐっと言葉を飲んだのが解ったのだろう。
『ま、練成陣自体は意外とポピュラーなものにアレンジを加えたもので、な。犬耳や尻尾くらいは問題ないが、アレンジの何がどう作用してハボックの年齢が若返ったのかが解らん。ただ、解るのはどちらも2週間程で効果が消えるだろうと言う事だけだ』
『それは、確かなのか?』
『ああ、元々この練成陣を考えた錬金術師は、あくまで一時的なキメラ化を研究していたようだ。…まあ、戦闘時のみキメラ化出来たなら、結構な戦闘能力だが。実際には、耳と尾が生えると言うだけの結果しか出せなかったようだが』
その言葉に、ヒューズは心底ほっとする。
もしも。
ハボックが踏んだと言う錬成陣が、一時的ではなく半永久的なキメラ化を促すものだったらと思えば、正直目の前が真っ暗になる程の恐怖だった。
『しかし、その姿を下手に晒す訳にもいかんしな。…下手に勘繰られて、ハボックを人体実験用に攫われても困る。元の姿に戻るまでの間、ハボックは東部に居ない方が良いと判断した』
だから、そっちに送ったと言われて慌てる。
下手をすれば、こっちの方がハボックに取っては危険な筈ではないのだろうか。
いや、絶対に危険な筈だ。
「ち、ちょっと待てよっ、こっちは中央だぞっ?何で、こっちの方が安全なんだよっっ」
『…今回の件は、大総統もご存知だ。…今回の練成陣の危険性もご理解いただいている。だから、表向きはハボックではなく子供が錬成陣の発動に巻き込まれた事にした』
解るか?この意味が、と続けられてヒューズも不承不承頷いた。
意味は、理解出来る。
一時的とは言え、若返る事が出来ると言うのは何時の時代も権力者の最後の野望だろう。
『…まあ、な。けど、それで大総統は納得してらっしゃるのか?まさか、大総統からハボックに何かしてくるって事はないだろうな』
その言葉に今度こそはっきりと解る程の、親友の呆れた言葉が降りかかった。
『確かにその可能性もあるがな、現時点ではハボックの踏んだ練成陣の形状は解っているんだ。ハボック自身を押さえなくとも、もう一度同じ錬成を行なう事も出来る。そんな中で、一仕官でしかないハボックを手元に置く必要はないだろう。…取り合えず、ハボックは休暇を取って実家に帰っている事になっている』
せいぜい大事に、預かってくれ。
そう言って切られた電話を前に、ヒューズは困惑の表情で長い間、受話器を見詰め続けていた。
by momomame at 21:37 |
小説 : マース・ヒューズ中佐の子犬 |
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