ジャン・ハボック少尉の愛犬?

 泣きそうに、否、既に少しばかり泣いてしまっているらしいハボックと。
 ハボックに抱き締められたままの状態で、子供とは思えないような凄まじい形相を向けてくる親友と。
 ついでに背後から漂ってくる冷気にホークアイの不興まで買った事を確信して、マスタングは脂汗が額を伝うのを感じた。
 特に小さくなった親友の形相は、絶対殺されると断言出来るようなもので。
 マスタングは、背に腹は代えられないと奥の手に置いておいたプレゼントを差し出した。
(仕方ない。泣く子とハボックに勝てる訳がない)


☆☆☆


「な、なあ、ハボック、顔を見せてくれよ」
(くっそー、ロイのヤツ、覚えてろよっ、何がハボックも喜ぶだっ、泣いてんじゃねぇかっ)
 内心で罵倒しながら抱き締めてくるハボックの肩越しに、睨みつければ予想外の展開だったのか引き攣ったような表情をしているが、知った事じゃない。
(後で絞めてやる)
 心の中で誓いを立てつつ、今だけは自分より大きな背中を宥めにかかる。
「…やです」
 ぐすんと、鼻まで啜る音が微かに聞こえて更に焦る。
「お前、見てみたいって言ってたって言うから、ロイの悪ふざけに乗ってやったんだけど…」
 なあ、黙ってたら判んねぇぞ?
 そう言ってみても、顔を上げるどころか更にぎゅっと抱き締める腕に力が入ってもその様子になんとなく判ってしまった。
(ああ、そっか。今日、ホワイト・デーだもんな。ぎゅってしてほしかったんだよな)


by momomame  at 22:43 |  ジャン・ハボック少尉の愛犬? |   |   |  page top ↑

ジャン・ハボック少尉の愛犬?

(ヤバイ、ヤバイ、ヤバイッ、非常にヤバイッ)
 ホワイト・デーに合わせて、親友に東部への出張を持ちかけたのは勿論、マスタングだった。
 元々、ホワイト・デーを恋人と過ごそうとしていた親友は一も二もなく、話に乗った。
 そこまでは、良かったのだ。
 出張の期間は、三日間。
 それにくっ付けるようにして、四日間の有給を申請した親友は恋人と一週間一緒に居る計画を立てていたのだ。
 その。
 今までにない親友の行動が微笑ましいと思う心とは別のところで、羨ましいという気持ちもあったのも事実だ。
 幸せに恋愛をしている親友が羨ましいと言う気持ちと、可愛がっているハボックを取られたような悔しさもあった。
 何せ、部下としてと言うよりも気持ちは可愛い子供を見守る父のような気持ちでハボックを見守っていただけに、気分は娘を取られた父のようなもので。
 二人が上手くいっている事を嬉しく思う反面、正直複雑な気分でもあったのだ。
 だから。
 ちょっとした悪戯心が動いた。
 別に別れさせたいとかそんな事は、欠片も思ってはいない。
 ただ。
 ちょっと、二人の慌てた顔を見たかった程度の事だった。
 なのに。
 これはちょっと不味い事になったと思った時には、後の祭り状態で。
(しまったっ、ハボックは意外に寂しがりなのを忘れていたな)


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by momomame  at 23:04 |  ジャン・ハボック少尉の愛犬? |   |   |  page top ↑

ジャン・ハボック少尉の愛犬?

 恐らく。
 以前、ハボックが子供になってしまった時に、『オレも、中佐の子供時代、見てみたい』と言った言葉が上官の記憶に残っていたのだろう。
(でもっ、だからって、だからってホントに子供にしちゃうってっっ)
 非常識すぎるじゃないかと、叫びたくても叫ぶ気にもならない。
 こう人だと言う事をうっかり忘れて、言ってしまった自分が悪いのだと項垂れる。
(だから、錬金術師ってっ)
「おうっ、…何だよ、その顔〜」
 その顔ってどんな顔だと不貞腐れ気味に思いつつ、ハボックは子供の前に座り込んだ。
「…何で中佐、そんなサイズなんスか」
 ちょっと目が据わってるのを自覚しつつ、小さくなった恋人の顔を覗き込めば、どうやら思ったのと違うリアクションに戸惑った様子でもごもごと言い訳をする。
「ああ?いや、何かハボックが喜ぶから協力しろって言われてよ…」
 お前が喜ぶんなら、別に良いかって。
「思ったんだけど、…ダメだったのか?」
 困った様子で首を傾げるのは、普段の恋人の仕草と同じで。
 けれど。
 小さな子供の仕草は、ハボック(他人にどう見えようとにとっては)非常に可愛らしいものだったから、諦めて笑うしかなかった。
「…確かにオレ、中佐の子供の頃が見たいって言いましたけど、写真が見たいって言ったんですよ?なのに何で、アンタ自身が小さくなってんですか…」
 そう言ってきゅっと抱き締めれば。すっぽりと腕の中に納まる小さな体は新鮮であるのと同時に、ほんの少しの寂しさを感じさせた。
(小さくても、大きくても中佐は中佐なのに、何でだろ。…涙が出そうになる。ああ、そっか。ぎゅってしてもらえないんだ…)
「…ハボック?」
 敏感に、ハボックの泣きそうな気配を感じ取ったのだろう。
 腕の中の子供が、必死にハボックの顔を見ようと藻掻き出すのを、ぎゅっと腕に力を込める事で押さえ込んだ。
「ちょっ、ハボックっ、どうしたんだよっ」
 腕の中で暴れるのを押さえ込んだまま、ハボックは少しだけ途方に暮れて立ち尽くした。


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by momomame  at 22:58 |  ジャン・ハボック少尉の愛犬? |   |   |  page top ↑

ジャン・ハボック少尉の愛犬?

 ひどく楽しげに、頷いた様子に予想がビンゴだったと知ってなんだかなぁと思った。
「そうか?では、私の見立てでプレゼントを用意しても良いかね?」
 後でそんなものは、要らないと言うのはナシだよ?
そう言った上官に、どうして諾と頷いてしまったのかと嘆いても後の祭りで。
後悔、先に立たず。
なんて、ファルマンが言っていた極東の国の諺なんて思い出しても仕方ないと、頭の隅で思った。
 そうやって現実逃避してしまっていたハボックの足元で、それは言ったのだ。
「なぁ、ハボック。今日から、お前んトコに泊めてくれる?」
 小さな。
 ハボックの腰の高さ程もない身長の、子供は見覚えのある顔立ちをしていた。
 見覚えのある顔立ちに、およそ子供らしくないスクエアな眼鏡。
 屈託のない笑顔は、普段通り。
 そして。
 そして、一番の問題はその耳と尻尾。
 以前、ちょっとしたアクシデントで錬成陣を踏んでしまったハボックと同じような姿に眩暈がする。
 それでも年は以前のハボックよりは、上だろう。
 一〇才程度の姿は、愛らしいと言うよりは少しばかりマセた子供だった。
「…ち、中佐……?」
(誰か嘘だと言ってくれっ)



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by momomame  at 23:53 |  ジャン・ハボック少尉の愛犬? |   |   |  page top ↑

ジャン・ハボック少尉の愛犬?

「さて、ハボック。そろそろ、ホワイト・デーが近づいてきたが何か欲しいものはあるかね?」
 気分も上々な様子の上官に、そう聞かれたのは確かに14日を数日に控えた日の午後だった。
「へ?」
 一瞬、何を言われたのか解らずに上官をマジマジと見つめれば、やれやれとまるで小さな子供でも見つめるような穏やかな眼差しに困惑する。
「先月のバレンタインに、お前からプレゼントを貰っただろう?」
 そのお返しに一体、何が欲しいかと聞かれて少し困った。
(うーん、別に大佐の為に作った訳じゃないし…。どうしよ)
 あげたのは、チョコレートのシフォンケーキ。
 中佐へのバレンタイン用のケーキを焼くついでに、皆の分を焼いたのだ。
(あれ、ホントは皆の分だったのに大佐が一人で食っちゃって大騒ぎだったんだよなぁ…)
 普段なら、その程度の事になら鷹揚な中尉がキレたせいで危うく、軍部内で射殺事件が起こるところだったのに、懲りないなぁと内心苦笑する。
 意外とああ見えて、中尉も甘党だからとハボックは暢気に思った。
「ええ、と。別に良いですよ?あれは、ついでもあったし…」
 などと、言ってみる。
「いや、それでは私の気がすまん。何かないのかね」
 その言い方と、楽しそうな笑みに何を言っても無駄なのだと感じ取る。
「…何でも良いっス」
 どうせプレゼントはもう決めてあるのだろうと予想して、そう言ってみれば案の定だったのだろう。


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by momomame  at 21:20 |  ジャン・ハボック少尉の愛犬? |   |   |  page top ↑

ようやく更新!

 すっかり遅くなってしまいましたが、コピー本をUPさせて貰います。
 何しろ、本が3月の春コミ用だったのでネタが少々古くなっているのは、ご了承下さい(笑)
 今回は子犬シリーズの番外編になります。
 楽しんで頂けたら、幸いです。
 
 更新が遅いのに、覗きに来て下さる皆さんに感謝しています。
 仕事を理由にするのは嫌なんですが、若かりし日と同じに原稿していては死にます(^_^;)
 
 ゆっくりとですが、お付き合い頂けたら嬉しく思います。

 
by momomame  at 22:11 |  ひとりごと |   |   |  page top ↑

ジャン・ハボック少尉の愛犬?

『ハボック、お前へのホワイト・デーのプレゼントだ。受け取ってくれたまえ』


 一体、どうしてこんな事になったのかと、途方に暮れた顔でジャン・ハボック少尉は足元で自分を見上げている子供を見下ろした。
 確かに今日は、ホワイト・デーだ。
 でも。
 ちょうど、今日はハボックは非番で。
 上官からのお返しは、明日だと思っていたのだ。
 なのに。
 何故かハボックのアパートの玄関先には、上官と副官である中尉と見覚えのある顔立ちの子供が立っていて。
 お返しがこんな形でくるとは、思ってもみなかったと目の前が真っ暗になった気分を味わった。
 そこには。
 どう見積もっても、一〇才未満のマース・ヒューズ少年が普段通りの笑みを浮かべて見上げていたのだった。
(…なんで、こんな事になっちゃったんだろ。確かにオレ、中佐の小さい頃の写真見たいって言ったけどさぁ)
 見たいだけであって、実際に会いたいなんて一言も言ってないんだけど。
 と、大げさな程のため息を零してはみても、状況は変わる事はなくて。
 昨夜、ホワイト・デーのお返しを今日届くように送ったからとヒューズから電話を貰った時は、擽ったいような気持ちと少しの寂しさを覚えながらも嬉しかったのに。
 お返しが、こんな形で来るとは思わなかったと。
 その日、ジャン・ハボック少尉は何度目か解らないため息を吐き出した。



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by momomame  at 21:49 |  ジャン・ハボック少尉の愛犬? |   |   |  page top ↑
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