マーケットからの帰り道。
ハボックは自分も荷物を持つと言って譲らず、結局妥協案としてパンや比較的軽い物を持って歩いていた。
けれど。
ある物体を見つけると、ぼんやりと立ち止まり見詰めた。
普段からは考えられない程、本当にぼんやりとしていて。
「…ハボック?どうした?」
少しばかり。
否。
ひどく心配になる。
けれど。
ヒューズの声に我に返ったハボックは、困ったような顔で笑う。
「ああ、ちょっとアレ見てただけっス」
そう言って指差した先にあるモノを見たヒューズは、少しだけ困ったような、それでいて懐かしげな視線をそれに向けた。
子供の為の、施設。
「…ああ、観覧車か」
「ええ、アレって遊園地なんスよね?」
その声音に、僅かばかりに混じっていた羨望のような色にヒューズは、首を傾げた。
「ああ、セントラルで一番古い遊園地だ。……もう直ぐ閉鎖になるって言ってたな」
「そうなんスか?」
「…施設自体も古くなってるしな。少し離れてるが、もっと良い施設が近くに出来たってのも原因らしい」
寂しい話だと、思う。
幼い頃には、ヒューズも楽しませてもらった場所だったのだ。
「ふーん、中佐も行ったコトあるんですか?」
「ああ、この辺で生まれたヤツは大抵一度は行ったコトあるんじゃないかねぇ」
「…へぇ、良いっスね。オレらの田舎には遊園地なんて無かったっスから」
一度も行ったコトがないと呟くハボックの視線は未だ、観覧車に注がれていて。
だから。
ヒューズは言ったのだ。
「…じゃ、行ってみっか?」
「え?」
「明日なら、俺も休暇だしな。よしっ、明日行くぞっ」
「ええっっ?」
突然のヒューズの宣言に純粋に驚いているハボックの手を引き、歩き出す。
「お前が普段のサイズなら、絶対一緒になんて行けないからな。今のうちに行っとこう」
まだ明日なら、十四歳前後。
充分に遊園地に行ってもおかしくはない年齢だった
by momomame at 23:13 |
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「何で。高いヤツのが、美味いだろ?」
「…何でも高けりゃ良いってもんじゃないですっ。値段が安くても料理の仕方で美味しい肉があるんです」
その言葉に、気が遠くなりながら言えば、肉屋の親父が可笑しそうに笑った。
「そうさ、ボウヤ。良く解かってるなぁ」
どんな食べ方をするかで、肉の部位を変えた方が良いのだと得意げに語る肉屋の親父の言葉に、ヒューズが素直に関心している。
「へぇ、そんなもんかぁ」
そんなヒューズの様子に、内心苦笑しつつハボックは親父にベーコンと薄切りハムをほんの少しだけ注文する。
「あいよ。じゃあ、おまけにソーセージを入れとくから明日の朝、ホットドックでねして食べな」
そう言って、気の良い親父がおまけと言って入れてくれたソーセージに慌てる。
「あっ、おっちゃんっ、ダメだよ、オレが買ったハムより高いじゃん」
そう言えば、肉屋の親父は楽しそうにハボックの頭を撫でて笑った。
「子供がいらん気を使うもんじゃねぇ。おまけ貰ったら素直に喜んでりゃ良いんだよ」
その言葉に、自分がまだ《子供》である事を思い出し、そして困ったような笑みを浮かべて言った。
「…ありがと、おっちゃん」
そう言って、にこりと笑えばまた親父の大きな掌がハボックの頭を撫でた。
それは。
もう忘れてしまうくらいに古い、父の記憶をハボックに呼び覚ました。
(ああ、そう言や、父さん元気にしてっかなー…)
つい先日、少し体調が悪いのだと母から連絡があったばかりで。
調度、休暇扱いになっている今なら時間もあるが、いかせん自分がこんな状態なのだ。
様子を見に行く事も出来ない。
その瞬間に浮かんだ寂しそうな表情を、浮かべた当の本人だけが気付かず。
ヒューズは、痛ましいものでも視るような眼差しで、ハボックの少しだけ項垂れた。
by momomame at 22:34 |
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突然、小さくなって。
耳や、しっぽまで生えて。
精神的にぐらぐらになって、ヒューズの所へとやって来た。
半分は、上官からの命令だった。
耳やしっぽが生えた時点で、上官の傍に居ればキメラと間違えられる可能性があったのだ。
ハボックの直属の上官は、東部では知らない者を探す事の方が難しい程に有名な《国家錬金術師》で。
キメラ研究をしている訳ではないが、錬金術師と言うだけでキメラを連想する者は多いだろうと、上官が自分の信頼する親友にハボックを預けたのだ。
その親友が、ハボックの事を特別に想っている事も知っていて。
最初は、ただ驚いたのだ。
上官の親友であり、情報部の切れ者であるヒューズがまさか自分のような何の取柄もない若造に興味を持つとは思いもしなかったのだ。
東部に来る度に、良く構われてはいたけれど。
けれど。
不思議と、嫌悪感なんてなかった。
それどころか。
本音を言えば、嬉しかったのだ。
このマース・ヒューズと言う男が。
好きだと言ってくれた事が。
ひどく、嬉しくて。
そして。
とても怖くて。
まだ、何の気持ちも返せてはいなかった。
「なあ、ハボック。これしようぜ」
ぼんやりと考えていたハボックの前で、ヒューズは極上肉を注文しかけていたのを慌てて止める。
「…ダメッスよっ、今日は、肉メインじゃないでしょ?」
サラダに少しトッピングするだけなのに、そんな高い肉はいらないと告げれば、ヒューズは不思議そうに首を傾げたのだ。
「何で。高いヤツのが、美味いだろ?」
「…何でも高けりゃ良いってもんじゃないですっ。値段が安くても料理の仕方で美味しい肉があるんです」
by momomame at 01:37 |
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元に戻るまで、単純計算で二週間。
その間、ヒューズのTシャツ等を袖を巻くって着ていれば充分だと思うのだ。
なのに。
納得しなかったのだ。
ヒューズが。
『じゃ、その間ドコも連れてってやれないのか?こんな狭い俺のアパートん中だけで生活すんのか?』
そう言ったヒューズの寂しそうな貌に、つい絆されてしまったハボックはそれでも新品を買うのだけは止めさせた。
だから。
今、ハボックが着ているのはヒューズが今日の朝、近くのフリーマーケットで購入してきたリサイクル品だ。
これも使い古した感じのする帽子の中に耳を押し込み、尻尾は無理矢理ズボンの中に入れてある。
少しばかり不恰好ではあったけれど、この年の頃のハボックは華奢すぎるくらいに細かったお陰で、少しくらいの尻尾の膨らみもウエストの辺りに巻いておけば解からない。
調度ヒューズが手に入れて来たズボンのウエストが大きかったのも幸いだったと安堵する。
それでも。
色褪せたブルーのTシャツとズボンは、良い感じに味があって。
(結構、良いんだけどなー。今日一日しか着れないのが勿体無い)
などと思いつつ、苦く笑う。
これが成人した後なら、老ける事はあってもそう身長が変わる事はない。(横にサイズが変わる事も、多々あるが)
(これが大人になってからのサイズだったら。有難く買ってもらうんだけどなー)
などと、内心でも溜息を零した。
溜息をつきつつも。
本当は、絶対そんな事の出来ない自分の性格はちゃんと解かっている。
買ってくれると解かっていても。
そんな事の出来ない、融通の利かない自分をちゃんと知っている。
知っていて。
だからこその、これはちょっとした他愛無い願望だ。
何せ、小心者なのだ。
自分は。
だから。
好きなんだと言ってくれたヒューズに、未だに何の答えも返せてはいないのだ。
by momomame at 22:40 |
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「ハボック、これなんて美味そうじゃねぇ?」
楽しそうに極上肉を指差すヒューズに大げさな程の溜息を零して、ハボックは首を横に振った。
(…ホント、料理できるのと買い物が上手いかどうかって比例してないなー)
ヒューズは、流石に一人暮らしが長いだけあって料理も掃除洗濯も一通りは自力で出来る。
ただ。
だからと言って、買い物まで上手く出来る訳じゃない事をここ数日でハボックは嫌と言う程、学んだ。
料理をするから食材を買って来てくれと頼めば快く行ってはくれるが、食材はてんでバラバラ。
肉も魚も、野菜も全部、その時に食べたいと思ったものを買って来るのだ。
それがどうやって料理するのかは、二の次。
しかも、全て極上物を買ってしまう。
高ければ、美味いのだろうと疑ってもいないのだ。
こう言うところは、流石にハボックの上官と親友なだけはあると、妙な感心をしてしまうくらいに。
(ま、高給取りだからできる事なのだろうけれど。もう少しくらい考えて物を買う事を覚えてほしいんだけどなー)
昨日だって、ひと悶着あったのだ。
ハボックの洋服を買おうとしたのだ。
それを。
ハボックは、必死で止めたのだ。
何故なら、その洋服は一度しか袖を通さない事が解かっている。
現在、ハボックはある理由で子供に逆戻りしているのだ。
最初は、新生児サイズだった。
それから。
一日に、約二歳ずつ成長している。
今日で、漸く十二歳くらいのサイズまで戻ったのだ。
その計算でいくと一日で二歳も成長したなら、買った洋服は一日しか着れられない事になる。
子供の二年間での成長は、恐ろしい程だ。
かく言うハボック自身、そこそこに長身な部類に入るだけに幼少期の成長は凄まじかったと記憶している。
特に、十五から十六にかけては、一週間で五センチも伸びた事もあった。(夜中に激痛と共に身体の中からミシミシと音が聞こえた時には、本気で死ぬかと思ったのは今だから笑える昔話だ)
そんな事情の中で、各年齢に合わせて洋服を買ったら勿体無いだけで。
だからいらないと言ったハボックは、何も間違ってはいないだろう。
by momomame at 22:12 |
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